利便性と古き物

「どうして教室はお湯が出ないの?」「どうして教室のトイレは冷たいの?」「どうして教室はぼろいの?」
 小さな子たちがこんな風に頻繁に言い出したのは、この4・5年だろうか? 
 子ども達は、率直だ。感じたこと、見えたままをそのままぶつけてくる。これはほんの一例だが、便利な物、きれいな物に囲まれて暮らしてる子ども達から見たら、うーん、なるほどとうなずける。
ここで教室を始めてから20年くらいになるだろうか? 画用紙、段ボール、工作の材料、本、資料であふれかえり、壁には子ども達の油絵や作品。
 そのすきまには絵具やクレパスの跡、跡、跡。今まで出入りした子どもたちの声が聞こえてくるようだ。

  
 便利じゃない物、古き物の良さだってあるんだよ、子ども達がわくわくして聴けるように伝えたいなぁとよく思う。
 そんな時、作者から一冊の絵本を頂いた。
PHP研究所・森川成美・作・佐竹美保・絵  
表紙のお目目くりん、これ子どもの蜘蛛です!名前はちゆいえこ。古道具屋の、鉄でできた扇風機の中に巣をせっせと作って住んでいた。
こんなの古すぎて売れっこないなんて安心しきっていた。ところが、思わぬ買い手が見つかって、それからちゆいえこの家さがし、巣つくりの始まり始まり。誰も用意してくれるわけがない。自分でさがすしかない!
店内をうろうろ、巡り合ったのは時の止まったむかーしむかしの置時計。
その時計の中を歩き回ると、いろいろな発見がある。いろいろ工夫しなきゃ住めない。
この不便さからの発見や工夫が鮮やかに描かれていて、ハラハラわくわくドキドキ。
なんと気難しい置時計の閉ざした心まで開いてしまう。絵からは、鍵穴に鍵を突っ込めば一週間動くこの時計を作るために費やした昔の職人さんの人柄、作る喜び、手触りまで感じられる。そして……最後の落ちがまたいい。是非ご一読を!