ハル君との三人四脚

 私の教室にハル君という生徒がいる。漢字で書くと晴君。小学二年生。

晴君がやってきたのは昨年の12月。「この子は絵を描くのも作るのも大好きで、自閉症です」とお母さんから聞いた。

集団の中で制作する前に、晴君とじっくり向き合い、晴君のことを知りたくて、晴君・アシスタントの黒川君・私との三人四脚が始まった。

絵が大好きな晴君、まず机の上に何枚もの紙を置いてみた。描く、描く、描く、それもすごいスピードだ。いくら紙を置いても足りないくらいだ。何気なく置いておいた三脚、そこにも描く、描く、描く。 

 

晴君はアンパンマンのキャラクターが大好き。アンパンマンのキャラクター一筋。ハサミで黒川君と一緒に切りました。紙に貼ったらこんな絵できちゃった。⤵ 

 

おやおや、次の週今度は自発的に一人で切り始めたぞ。紙に貼って絵の具で塗り始めたよ。

 

こんなお茶目なところもあります。描いたものを切って胸にポン。バッジです。

 

 だが、いい時ばかりじゃない。教室に入るのを拒否、大声で泣いたり、暴れたり。そういう時は無理をしないことにしている。きっと入りたくない理由があるはずだから。お母さんに聞けば、来る前に眠り始めてたり、家で絵を描いてる途中だったり。

中断して来るって誰だった嫌だよね。

だけど……

 晴君にとって教室が安全で楽しい場所だとだんだん手応えを感じたある日、やっぱり「嫌だ、嫌だ」それで、外で描くことに変更、大好きなホワイトボードに描いてみた。青空教室大成功!最後には手を振ってバイバイの晴君。(6月4日ブログ参照)

終わった後は黒川君と職員会議、いえそんな大げさなものではなく、意見を出し合います。「一枚の絵をじっくり仕上げられたらいいね」「紙を一枚一枚渡したらどうだろう」「それはいい考えかもしれない」等など。

早速実行、今まで机の上に置いていた何枚もの紙を一枚だけにした。

描き終わったら紙がない。

さぁ、晴君は困った、困った。教室を歩き回ったり、私をひっかいたり。

「先生に紙下さいって、言ってもらっておいで」黒川君がやんわりと示唆する。

(そっか、そう言えばいんだ)納得した晴君が私のそばにやってきて「紙下さい」

 何度も行ったり来たり。その度に「紙下さい」 

 最近作です。⤵

一枚一枚描くのがとても丁寧になり、今までと違って線もふんわり、ユーモラス。

彼の中には、彼独自の物語がきっとあるんだね。

いつも描いた順に貼っていきます。今までの膨大な量が6枚になりました。

今では教室に来るなり「紙下さい」の晴君。やる気満々です。やったね!

 

この頃ではすっかりリラックス。黒川君にべったり、時には私の膝にやって来てマスク越しにモーレツキッス。(うーん、態度でかいぞ)嬉しい悲鳴をあげています。

 ★下記は良き協力者、黒川君のコラムです。

『絵を描く動機が「ほめてほしい」の子供は少なくない。 絵に限らず、自主的に何かをして「ほめられる」事は、一つの成功体験であるから、悪いことではない。

 しかし、それに終始するあまり、「ほめて」中毒に陥ってしまう子供も大人も少なくない。 それは当人の自由だが、私としては「ほめてほしい」で描かれた絵を好きになれない。

そうして描かれた絵は、その子本来の個性を潰してしまうと、私は考えるからだ。

 ジャリンコや砂場で、山や小川を作るように、遊び半分でしてくれたらと思っている。

 今回紹介する「ハルくん」は、そんな「ほめて」の無い稀有な生徒だ。

 ハルくんが我々に求めるのは「紙ください」という簡単な言葉だけ。他はわーわーはしゃいだり、引っ掻いてきたり甘えたりする。 絵が完成すれば一人で「かんせー」と言い、一人で絵に拍手をする。 それが終わると、もう前の絵には興味 の無い様子で、新しい「紙ください」をする。

  私も絵を描くのだが、絵を描いていてそれ程シンプルになれた事は無いし、そうなりたいと思う。 私にとってハルくんは小さなお友達で、ちょっとした憧れなのだ。

ただ思う事は、ハルくんに無い「ほめて」で、他の誰かが「ほめて」をするような事は、起こらないで欲しい。

 ハルくんにはこのまま、自分にしか見えない世界を探求して欲しいと思っている。

 私はハルくんの隣で、絵を受けとる時間をとても気に入っている』

 

晴君(ハル君)の約半年間の記録です。

私はいつも彼のあとをついて行く。

これはどの子達にもいえると感じる。

彼等、彼女達の事をもっともっと知りたいから。

子どもが迷ってるなって感じた時は、少しだけ言葉かけをすることもある。

「どうしたらいい?」と聞いてきた時は、「うーん、君はどう思う、どうしたい?」と、一緒に考える時もある。

自分でも気がつかなかった面白い世界や楽しい世界、いろいろな世界に気がついてほしいから。

 

これからも晴君が、どんな世界を広げていくのか楽しみだ!